この度、UNPEL GALLERY(アンペルギャラリー)で「半有 ―静かに変化するもの― 石崎誠和 研究報告展」を開催します。本展は、日本学術振興会(文部科学省所管)の「科学研究費助成」を受けた石崎氏の研究成果報告展です。
石崎氏はこれまで植物や身近な風景を対象として、対象をどのように捉えるか、画面と対峙する方法を研究してきました。
今回の展覧会は、岩絵具の描写と墨の溜まりや滲みや線による描写を共存させ、身体性と観念性の両者に働きかける画面を目指し、流動的な次元を生み出すことを試みた作品を展示しています。是非その成果をギャラリーでご覧ください。
■作家コメント
山間に人知れず残された大型プールとその雪景「白景」。無人になった家に植物だけが循環する「きえのこる庭」。そして、その庭の片隅にある木蓮の古木「震れる」。くるみの木にアケビと野葡萄の蔦が絡まり、それらの葉が風に揺れている「風葉」。これら4点を中心とし、「一枝図」「綿毛」など植物の小作も展示します。
1月、木蓮には昨年成長した枝の先々に蕾があり、雪が積もっている。枯れた蔦の蔓が枝に縦横に絡まる。2月、まだ蕾は硬い。時折春を感じさせる日差しが雪を溶かすが、再び積雪する。3月、風はまだ冷たいが日差しが増し、蕾は変化を感じさせ、ひよどりが枝に止まり、飛んでいく。中旬には、蕾が膨らみはじめ、下旬には蕾が綻び、花が次々と開く。これらの写生を通して、多層的な時間の関わりの中で私にとっての木蓮が形成されていく。視点を固定すると見えない枝と枝との重なりの向こうも、少し視点を動かすだけで見ることができる。私の目の経験は身体を脱し、徐々に自由に空間を浮遊できるようになっていく。一日中写生した日、1時間だけ行った日、雨にふられて途中で描けなくなった日、手がかじかんで思うように線が引けなかった日、同じ日でも時間によって変わる状況や違う日の状況が時空を超えて混ざっていく。対象との経験は、その対峙する瞬間にだけではなく、対峙するたびに積み重なり、現場を離れたのちも観念の中で反芻していく。そして制作において、画面に筆を置く、描く、その現実感の中でそれらの経験が呼び起こされ、時空の順次性が融解し、混淆し、やがて一つの画面に表出していく。
私はこのような流動的な、動性を伴った経験をどのように具現化するのかを研究してきた。岩絵具の物質感による即物的に感じられるリアリティから、墨の溜まりや滲みや線は、観念的次元に観者を飛躍させる。一つの画面に即物的、即時的な時間と、それとは異なる空間が共存する、または往還できる次元を生み出すことは可能ではないか、このような推論によって制作研究を行なってきた。
これまで私にとって空に浮かぶ雲は気体、物質として、私の身体と空間を共有していたが、ある時、街並みの向こうに見える雲が中世に描かれた墨絵の中の雲のように、最低限の点や控えめな線、または描かないことによって浮き出てくるものとして見えた。私はその時に観念的な次元を雲と共有した。身体的な経験と観念的な経験の両者を行き来することによって新たな次元を浮遊できる。私にとってあまりにも身体と目が一体的になっていたために浮遊できなかった次元と行き来できることを知った。それから私にとっての日本画は、窓でもなく、ものでもなく、次元を行き来する場となった。
石崎誠和(いしざき ともかず)
インタビュー動画
展示作品
一枝図
雲肌麻紙 銀箔 染料 墨 岩絵具 胡粉
震れる
第9回 日展 特選
1820×2270mm
雲肌麻紙 銀箔 染料 墨 岩絵具 胡粉
きえのこる庭
1820×6300mm
雲肌麻紙 銀箔 染料 墨 岩絵具 胡粉
白景
1820×5800mm
ユニペーパーα 典具帖紙 銀箔 墨 岩絵具 胡粉 水干